解説

【2026年最新】ネイチャークレジット完全ガイド|生物多様性クレジットの基礎知識

The Big Picture

2025年にVerra初のガイダンス発行、各国で法定市場が始動し、ネイチャークレジット市場は本格的な離陸段階に入りました。2026年は「実装の年」として、企業の具体的対応が問われます。

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Why it matters

TNFD採用企業620社超、SBTN目標設定企業の増加に伴い、「自然への貢献」を示す手段としてクレジット需要が顕在化し始めています。

2025-2026年の市場動向

Verra Nature Frameworkの本格稼働

2024年11月に正式リリースされたVerraのNature Frameworkは、2025年4月からパイロットプロジェクトのクレジット発行を開始しました。1 Nature Credit = 1 Quality Hectare(Qha)の1%として定義され、生物多様性成果の定量化に初めて大規模な標準が適用されています。

各国の法定市場の進展

オーストラリア:2024年に世界初の法制化された自主的生物多様性クレジット市場(Nature Repair Market)が始動しました。

英国:土地開発時の10% Biodiversity Net Gain義務化に伴い、法定クレジット制度が整備されています。

EU:CSRD(企業サステナビリティ報告指令)における生物多様性開示要件の強化に伴い、クレジット活用の議論が活発化しています。

ISSBの自然関連基準検討

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、TNFDと連携しながら自然関連開示基準の策定に着手しています。2025年のTNFD調査では、回答者の77%がISSBによる自然・生物多様性基準の導入を希望し、91%がTNFD勧告との整合性を求めています。

市場規模と需要見通し

現在の市場規模

BloombergNEFの2024年推計では、これまでに購入されたネイチャークレジット総額は100万ドル未満です。Bloom Labsのデータベースによれば、2025年2月時点で53のクレジットスキームが稼働または開発中となっています。

将来予測

世界経済フォーラム(WEF)は、効果的な市場発展が実現した場合でも年間需要は最大20億ドル程度と予測しています。これは昆明・モントリオールGBFが掲げる年間2,000億ドルの資金動員目標の1%に過ぎません。ネイチャークレジットは重要な資金調達手段の一つですが、公的資金や直接投資の代替にはなりません。

主要方法論・基準の比較

Verra Nature Framework

  • 単位:1 Nature Credit = 1 Quality Hectare(Qha)の1%
  • 特徴:SD VIStaプログラムの下で運用されています。先住民との協議プロセスを経て開発されました
  • 段階:テスト版として運用中です。ベースライン設定手法等を継続検証しています

Plan Vivo

  • 特徴:コミュニティ主導プロジェクトに焦点を当てています。地域社会への便益還元を重視しています
  • 強み:社会的インパクトとの統合、透明性の高いコミュニケーション要件があります

Wallacea Trust

  • 特徴:種レベルの成果測定にフォーカスしています
  • 強み:絶滅危惧種保全との直接的リンクがあります

企業の活用場面と留意点

TNFD開示における位置づけ

TNFDは依存・影響・リスク・機会の開示を求めますが、「貢献」の開示は任意です。ネイチャークレジット購入は、Strategy(戦略)やMetrics & Targets(指標・目標)の開示において、自然への積極的関与を示す手段となり得ます。ただし、ミティゲーションヒエラルキーを無視した貢献主張は批判を招きます。

SBTN目標との関係

SBTs for NatureのAR3T行動枠組み(Avoid, Reduce, Restore/Regenerate, Transform)において、ネイチャークレジット購入は主に「Restore/Regenerate」への貢献として位置づけられる可能性があります。ただし、回避・削減の優先は大前提であり、クレジット購入がこれらの代替となることは想定されていません。

サプライチェーン・インセッティング

IABPが示す3つの用途のうち、「Insetting(インセッティング)」は自社サプライチェーン内での生物多様性向上を指します。原材料調達地域での保全・再生プロジェクトへの投資は、調達リスク低減と「貢献」の両面で合理性があります。

クレジット品質評価の5つのポイント

  1. 追加性(Additionality):クレジット収入がなければ実施されなかった活動かどうかを確認します
  2. 永続性(Durability):成果は長期間維持されるか、リバーサルリスクへの対応はあるかを確認します
  3. 測定・検証(MRV):成果測定の方法論は科学的に妥当か、第三者検証は行われているかを確認します
  4. 社会的セーフガード:先住民・地域コミュニティの権利は尊重されているか、FPICは取得されているかを確認します
  5. ガバナンス:発行主体のガバナンス体制、苦情処理メカニズムは整備されているかを確認します

日本企業の動向

SBTNパイロットプロジェクトにはサントリーホールディングスが参加し、日本企業による自然関連目標設定の先行事例となっています。また、環境省の「ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム」には多数の企業が参加し、自然共生サイト・OECM登録が進んでいます。

日本固有のネイチャークレジット制度については、政府主導でのパイロット事業が進行中であり、2030年の30by30目標達成に向けた有力な手段として検討されています。

参考文献・出典

  • Verra (2024) “Nature Framework v1.0”
  • TNFD (2025) “2025 Status Report”
  • World Economic Forum (2024) “Nature Finance and Biodiversity Credits”
  • OECD (2025) “Scaling Up Biodiversity-Positive Incentives”
  • BloombergNEF (2024) Biodiversity Credit Market Analysis
  • IAPB (2024) “Framework for high-integrity biodiversity credit markets”
  • Science Based Targets Network (2025) “SBTN Corporate Manual”

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