解説

ネイチャークレジットとは?定義・仕組み・カーボンクレジットとの違いを徹底解説

The Big Picture

ネイチャークレジットは、生物多様性の保全・回復成果を定量化し取引可能にする新たな金融メカニズムです。カーボンクレジットとは測定対象・場所固有性・用途において本質的に異なります。

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Why it matters

カーボンクレジットの知見だけでは対応できません。両者の違いを正確に理解することが出発点となります。

ネイチャークレジットとは何か

ネイチャークレジット(Nature Credit)は、自然環境の保全・再生活動によって達成された生物多様性の正の成果を測定し、証明書として発行したものです。

Biodiversity Credit Alliance(BCA)は、「測定可能かつエビデンスに基づく生物多様性の正の成果の単位であり、持続的(durable)かつ追加的(additional)なもの」と定義しています。「ネイチャークレジット」と「生物多様性クレジット(Biodiversity Credit)」は実務上ほぼ同義で使用されます。

Verraによる定義

2024年11月にNature Frameworkを正式リリースしたVerraは、1 Nature Credit = 1 Quality Hectare(Qha)のネット生物多様性向上の1%と定義しています。Quality Hectareとは、基準となる自然状態に対する相対的な生態系の質と面積を掛け合わせた指標です。

ネイチャークレジットの仕組み

オックスフォード大学の研究チームが2024年12月に発表したフレームワークによれば、ネイチャークレジットの方法論は以下4段階で構成されます。

1. Framing(枠組み設定)

1クレジットが何を表すかを定義します。種の多様性、生態系の健全性、生態系サービスなど、何を「価値」として測定するかを決定する段階です。

2. Quantifying(定量化)

プロジェクトサイトにおける生物多様性をある時点で測定します。種数、植生被覆率、生態系インテグリティスコアなど、選択した指標に基づいて数値化します。

3. Detecting(検出・帰属)

時間経過による保全・再生効果を検出し、その成果がプロジェクト介入によるものであることを帰属させます。ベースライン(介入がなかった場合の想定)との比較が鍵となります。

4. Adjusting(調整)

プロジェクト管理外の要因(気候変動、外来種侵入など)を考慮し、発行クレジット数を調整します。不確実性を反映したバッファ控除などが行われます。

カーボンクレジットとの3つの根本的違い

違い①:測定対象の複雑性

カーボンクレジット:tCO2eという単一の普遍的指標で測定可能です。1トンのCO2は世界中どこでも同じ1トンです。

ネイチャークレジット:生物多様性は多次元の価値(種の多様性、生態系機能、文化的価値など)を持ち、単一指標への還元が困難です。「1単位の自然」の定義は方法論によって異なります。

違い②:場所固有性(ロケーション依存性)

カーボンクレジット:CO2は大気中で均一に拡散するため、削減・除去の場所は本質的に問われません(fungible)。

ネイチャークレジット:生物多様性の価値は地域ごとに異なります。熱帯雨林の保全成果と温帯草原の保全成果は質的に異なり、単純な交換可能性(fungibility)は成立しにくいです。

違い③:「オフセット」vs「貢献」

カーボンクレジット:自社排出量を他所での削減で相殺する「オフセット」概念が中心です。ネットゼロ主張の手段として広く使用されてきました。

ネイチャークレジット:国際生物多様性クレジットに関する諮問パネル(IAPB)は、主たる用途を「Evidence-based Contributions(証拠に基づく貢献)」と位置づけ、オフセット使用には厳格な条件(同一地域・同一生態系でのlike-for-like)を求めています。

よくある誤解と実務上の落とし穴

誤解①:カーボンクレジットの延長線上で理解できる

カーボン市場の経験をそのまま適用することはできません。測定の複雑性、場所固有性、用途の制約など、根本的な違いを理解した上での対応が必要です。

誤解②:購入すれば「ネイチャーポジティブ」を主張できる

ミティゲーションヒエラルキー(回避→削減→再生→オフセット)の順序は大前提です。自社の自然への悪影響を縮小せずにクレジット購入で貢献を主張することは、グリーンウォッシング批判を招きます。

誤解③:市場は成熟しており、すぐに大規模購入が可能

BloombergNEFの2024年推計では、これまでに購入されたネイチャークレジット総額は100万ドル未満です。市場は黎明期にあり、方法論・ガバナンスの標準化は進行中です。

企業としての現時点での対応

  1. 自社の自然関連リスク・機会を評価する:TNFDのLEAPアプローチを活用し、依存・影響を特定します
  2. ミティゲーションヒエラルキーに沿った対策を優先する:まず影響の回避・削減に注力します
  3. 市場動向・ガイダンスを継続的にモニタリングする:BCA、IAPB、OECD等の動向を注視します
  4. パイロット的な関与を検討する:小規模な貢献からの学習を進めます

参考文献・出典

  • Biodiversity Credit Alliance (2024) “Definition of a biodiversity credit” Issue Paper No. 3
  • Verra (2024) “Verra Launches Nature Framework”
  • Wauchope, H.S. et al. (2024) “What is a unit of nature?” Proceedings of the Royal Society B
  • IAPB (2024) “Framework for high-integrity biodiversity credit markets”
  • BloombergNEF (2024) Biodiversity Credit Market Analysis

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